20250821_枚方市立菅原東小学校 向井俊文校長インタビュー
民間人校長としてご活躍の枚方市立菅原東小学校・向井俊文校長先生にお話を伺う機会をいただきました。
校訓「夢に向かってたくましく生き抜く」を掲げる同校で、向井校長ご自身がその言葉を体現するように挑戦を続けておられる姿は、多くの示唆に富んでいます。
ビジネスの視点を取り入れた校務改革や教員育成、学校全体のマネジメント強化に取り組まれ、確かな成果をあげておられる点は、教育現場に新しい風をもたらすものです。
今回のインタビューを通じて、学校経営の未来、そして子どもたちを取り巻く教育の可能性について考える機会をいただきました。
民間出身校長が挑む「変化を恐れない学校づくり」
枚方市立菅原東小学校の校長を務める向井俊文さんは、異色の経歴を持つ教育者だ。大学卒業後、アメリカの金融機関で22年間にわたり日本と世界をつなぐ営業の第一線で活躍。バブル崩壊やアジア通貨危機といった激動の時代に、日本の金融システムを支える一翼を担った。その後、教育者一家に育った自身のルーツに立ち返り、「次は教育に関わりたい」との思いから任期付校長に挑戦し、現在2年目を迎えている。
菅原東小学校は、児童数およそ1000人を誇る枚方市最大規模の小学校だ。地域とのつながりも深く、祭りや田んぼ作り、餅つき大会といった活動を通じて、保護者や地域住民と学校が一体となって子どもたちを育む場となっている。
そんな大規模校の舵取りを担う向井校長が掲げるビジョンは明快だ。すべては子どものために。そのために「対話を重視した意思疎通」と「互いに助け合う関係性」を軸に、教職員が心理的に安全な環境で挑戦できる学校づくりを目指している。前例踏襲を脱し、“○○しなければならない”ではなく“○○してもよい”という自由な発想を職員と共有しながら、新しい学校文化の構築に挑んでいる。
子どもたちの「やってみたい」を応援する校長
向井校長が大切にしているのは、子どもたち一人ひとりの「やってみたい」という気持ちを後押しすることだ。学校は勉強だけを学ぶ場ではなく、好きなことに挑戦し、自己表現を育む場所でもある。そのために時に大人にしかできない役割――挑戦の橋渡し役――を担うことを意識している。 その象徴的な取り組みの一つが、大阪万博での英語漫才だ。
校長が「やってみたい人は?」と問いかけると、6組の子どもたちが立候補。ネタ作りには校長自らが伴走し、「難しいかな?」と思われた英語のセリフも、子どもたちは驚くほどの速さで身につけていった。最終的に代表は一組に絞られたが、出場できなかった子どもが流した涙は努力の証。その姿を前に校長は「頑張ったからこその涙だよ」と伝え、挑戦そのものが貴重な経験になったと振り返る。
また、菊の栽培にも挑戦した。手間がかかり、思うように咲かせるのも難しい花だが、子どもたちは根気強く世話を続け、見事に花を咲かせ、子どもたちの目には自信と達成感が宿った。そしてさらにその菊が賞を受賞し、子どもたちの表情はキラキラしていた。挑戦と成功の積み重ねが、これからの人生を支える大きな力となっていくに違いない。
取り組みと成果――教職員が安心して働ける学校へ
向井校長が着任して以来、力を注いできたのは、教職員一人ひとりとのコミュニケーションだ。日々の対話を重ねるなかで、「○○しなければならない」という思い込みをほぐし、「やりたいことをやってごらん。責任は私がとるから」と背中を押す。その言葉に支えられ、先生たちは安心して自分の力を発揮できるようになった。
その成果は数字にも表れている。忙しさのなかで心身をすり減らし、弱音を吐けずに抱え込む教職員が多い学校現場において、向井校長の着任後、菅原東小学校では休職者や退職者が出ていないのだ。これは決して当たり前ではなく、校長がつくる「安心して挑戦できる環境」があってこそ実現した結果といえる。
そして、教職員がいきいきと働く姿は、子どもたちに必ず伝わる。先生が元気で笑顔であれば、子どもたちもまた安心して学校生活を楽しむことができる。向井校長の学校づくりは、まさに“大人と子どもがともに輝く場”を生み出している。
保護者対応――真意に耳を傾ける姿勢
どの学校でも課題に上がるのが保護者対応だ。時に“モンスター・ペアレンツ”と呼ばれることもあるが、向井校長は「真面目で真剣に子どものことを考える熱心な親御さんが多い」と語る。だからこそ大切なのは、表面的な要求や強い言葉に振り回されることではなく、その奥にある真意に耳を傾けることだという。
現場では、教職員がどうしても保護者の意見に迎合してしまう傾向がある。そこで校長は、あえて関係する教職員を同席させ、リアルな保護者対応の場に立ち会わせている。マニュアルで学ぶのではなく、目の前で交わされるやり取りを身体で体感する――これに勝る学びはない。結果として、難しい対応も収束し、保護者が学校のよき理解者に変わっていったという。
未来をひらくコミュニケーションの力
向井校長が大切にしているのは、教職員のケアや保護者との連携、いじめ対策においても欠かせない「コミュニケーションの力」だ。対話を重ねることで、誤解や孤立を防ぎ、大人にも子どもたち一人ひとりにも安心できる環境を届けたいと考えている。
さらに校長は、これからの教育において「メタ認知能力」を育むことも重要だと語る。他人とのかかわりの中で自分自身の行動や感情、認知を俯瞰し、最適な行動をとれる力が、健全な人間関係を築く基盤になると考えている。
この考え方は、私たちOKOSEエデュケーション協会のビジョン「自分とつながる力」とも重なっている。自分を俯瞰し、自分を尊重できるからこそ、相手を尊重できる。本来の自分とつながることが、人との関係を豊かにし、未来を切り拓く力につながっていく。
今後の展開において、こうした視点を共有し合い、相互理解を深めながら教育現場と社会をつなぐ新たな可能性を広げていきたい。教育現場の挑戦と社会の知恵が響き合うとき、未来の子どもたちにとって新しい可能性が広がるのだと、今回の面談を通じて強く実感した。
私たちOKOSEエデュケーション協会も、その一助となるべく活動を続けています。協会の取り組みについては、活動紹介ページ からご覧いただけます。
